住職のショートショート:エピソード33「アクリル板の玄関扉」

アクリル板の玄関扉

あるお参り先のお宅、玄関の引き戸が半分ガラスで
残りはアクリル板が入っていたのですが、けっこう隙間が有りました。
真冬には冷たい空気が家の中に入り込んで随分と寒くなります。

読経のあと、コーヒーを出していただき、
故人の思い出を聞かせてくださいました。

私の親は読書が好きでいろんな本をよく読んでいたのですが、
晩年は認知症を患い、世話が大変でした。


お金が無くなったとか、食事を済ませてるのに、まだ食べていないとか、
家にいるのに、家に帰るからとでて行こうとする。
親に、ここが自分の家だと私がいっても聞かないで、
無理やり外出しようとするのを止めると、
凄い力で玄関の扉のガラスを割ってしまったのです。
それでアクリル板をはめて代用してます。
もう何年も前になりますが、その時のことを忘れないようにと、
そのままにしています。

そんなふうに私に話されました。
自分が親の歳に近づいて、親の気持ちを考えるようになり、
親に反抗して、親の言うことをなんでも否定してきた。
認知症になって筋の通らないことを言いい出したが、
当時は、病気だから仕方ないとは思えなかった。

今から思えばもう少し優しくしてあげれば
良かったと思っているとの事でした。

思いもかけないエピソードに私は驚き、
人が見ればなんでもないことや、わからないことも、
当事者には大切なことがあるんだなあと、教えていただきました。

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