住職のショートショート:エピソード24「クレーマーの友人」

クレーマーの友人

そのご夫婦とは、あるデパートのパーティで知り合いました。
会話がとても楽しく、後日お食事をご一緒しました。
その後、あるシティホテルのラウンジでの出来事です。
真冬のある日でした。
彼はアイスコーヒーを注文したのですが、
「寒い時期なのでアイスコーヒーは用意していない」と、
ウェイターが答えていました。
友人はそこで怒りを表しました。
奥様はまたいつものことが始まったと、微笑んでいます。

当時は、アイスコーヒーとは言わずに、
冷たい珈琲なので、冷珈(レイコー)と表現してる人が多くいました。
「シティホテルで、冬だからといって、冷たいコーヒーが無いのはおかしい!
暖房がよく効いていて冷たいものを飲みたいお客もいるんや!」と絡んでいきます。

私はそれを聞いていて、何を提供するかは、お店が決めるもので、
客が決めるのではないと、私はあまり気分良く有りませんでした。
お店の方は怒るわけでもなく、丁寧に聞いていらっしゃいました。

それから友人のクレーマー談を沢山聞きました。
友人はお気に入りの自転車をお持ちでした。
ある時に、壊れた部品を求めてメーカーに連絡すると、
既に製造が終わり部品は無いとの返事だったそうです。

そこで友人は会社のトップに苦情をぶつけたので、
社員の方が菓子箱を持って自宅に謝罪に来られました。
その自転車を見せると、社員の方は、感嘆されました。
「20年も前の自転車が、新品のように手入れされています!」、
逆に
「当社の自転車を丁寧に使用いただき感謝します。」
とお礼を言われたそうです。

またカラオケの出来る家電をお持ちでした。
新しい歌詞カードを求めると、やはり製造中止になっていたそうです。
「これでは、詐欺と言われても仕方ないのでは?」とクレームされました。
会社からは、申し訳ないと、在庫歌詞カード沢山いただいたそうです。

私は友人に、「そんなにクレームを言い続けて怖くないですか?」と質問しました。
友人は、「毎日、今日が最後の日と思って出かけている。」との答えでした。

ある時クレームを言われた業者の方と話すことが有りました。
その友人の言われている事は正しいことで、
会社としても、大変役に立っているとの事でした。

善意にしろ悪意にしろ、クレームを言われると腹が立ってしまったり、
気分が良くないです。
しかし後から考えると、新しい視点を見出せことも有ります。

その友人はもう故人になっています。
私には懐かしい思い出です。

いま冬場でも普通にアイスコーヒーが飲めるのは、
その友人の功績の一つかも知れないと、懐かしく味わっています。

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