住職のショートショート：エピソード11 「お父さんの苦労がわかりましたか！？ 」

お父さんの苦労がわかりましたか！？

父が亡くなって数ヶ月が過ぎ、あるお宅でだしぬけに、言われた事があります。

「あなたも、跡を継いで、お父さんの苦労がわかるようになったでしょう！」

私は一瞬言葉に詰まりました。
父の一番の苦労はなんだったのかと考えました。

それは、自分が思ったことを、言えなかった事ではなかったか。
ある時、「お前はここで生まれて、好きな事が言えていいなあ…」と父は私に言った事がありました。

実は、父は婿養子だったのです。

周囲のお寺からは「御養子さん」と丁寧に言われていますが、気に入られなければ追出されるという事もよくある話でした。
養子は何年経っても、養子なんです。
例えば、小学校一年の時に転校生がやって来た。50年経って同窓会をしてもその方はずっと転校生ですというように。

私にはわからない「養子」ということで、父は苦労していたと思います。

実は、父は「お父さんの苦労がわかりましたか？」とおっしゃったその方との関係において、よく不機嫌になっていました。
そして夜晩酌をしながらよく愚痴をこぼしていました。
それをいつもただ聞いていたのは、母と身体障がい者の兄でした。
私は、「はいあなたの事で、大変な苦労していましたよ。」とは言えませんでしたが…。